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■山崎洋子&一之 さん 
■長澤源一 さん ■梶谷きよみ さん


都会暮らしを捨て、新天地へ

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山崎洋子&一之 さん
福井県三国町
おけら牧場

《都会暮らし》

「見習い音響ウーマン」

「五、四、三、二、一・・・・・・」
 張りつめた緊張感の中のスタジオに、秒読みの声が響く。ディレクターの「キュー」が飛ぶ。テープデッキのボタンを押す。テーマ音楽が流れ、タイトルが映る。
 私はかけ出しの音響効果マン、効果ウーマンの卵だった。
 本番前のスタジオの緊張感と張りつめた空気の中で、指先に神経を集中し、耳を澄まして音を聞く。レコードのターンテーブルをまわす。
 画面には海が光っていた。フランク・プールセル楽団の奏でる曲が静かに流れ、画面に大きくタイトルの文字が映し出された。太陽が金色の輪を放ち、海を照らし、濃紺の海面を赤く青く染めて波がうねっていた。薄紫の雲がたなびいて濃紫の空が広がっていた。 映し出させれた映像に、選んだ音楽がマッチして思いもかけない新鮮な画面が展開する。何とおもしろいことか。いつの間にか音響効果の仕事に魅せられていた。
 ある日のこと、効果スタジオのマイクの前に、しっかり巻いた大きなハクサイが置いてあった。お、今日は調理実習?!と思ったら、
 「よう、手伝うか」
 そう言って、テープレコーダーのボタンを押すと、先輩がスタジオのドアを閉めた。テープがまわり出した。
 何をするのかと思ったら、先輩はいきなり出刃包丁を握りしめて、思いきりハクサイに突き刺した。
 ブスッ!鈍く低い音がした。また突き刺した。何度か突き刺したあと、こちらを向いてニヤッと笑った。
 「取れたぞ!」
 何と、人を突き刺すときの刀の音を作っていたのだ。録音したいくつかの音を機械にかけて加工すると、先輩は満足そうに次の仕事に移ってる。こんどは床に板を敷いて、マイクの前でぬれぞうきんを力いっぱい叩きつけた。パシッとあたって、ピチャッというしぶきが飛ぶ。何度も何度も強さを変えて、気に入るまでぞうきんを投げつける。こんどは、ちゃんばらで返り血をあびた音だった。
 ある日のことだ。別の先輩がリールからテープを引き出して、次から次へとばらしていた。床には茶色いテープがシャラシャラとこぼれ山のように積み上げられて波打っていた。先輩は首をかしげてはつまんだり、揺すったりして波立たせている。三本、四本、五本、テープをばらして、それでも足りなくて、編集部から切り捨てた一六ミリフィルムを持ってこさせると、それを集めてひっかきまわした。まるでフィルムやテープのゴミの山をあさっているようだった。
 「何をするんですか」
 そう言っても教えてくれない。やがて、テープのシャラシャラした音と、フィルムのサラサラカラカラした音をそれぞれ録音して合成する。
 先輩が尋ねた。
 「これは何に聞こえる?」
 テープレコーダーから流れる音は、川の流れのようだった。流れの中にゆったりと泳ぐ魚をイメージさせるような音だった。そう言うと先輩はうなずきながら言った。
 「鯉のぼりだ。大空で風をきってゆったり泳ぎまわる鯉、そして、青い空にカラカラと風車がまわっている音だ。どうだ、聞こえるか」
 蒸し暑いスタジオの戸を開けて出てきた先輩は、額に大粒の汗を浮かべていた。
 音を集め、音を作る。不安な音、不快な音、心地よい音、心浮かれる音、何もないところに情景をイメージしながら音を作り、組み合わせる仕事は、まるで音をあやつる魔法使いのようだった。やり始めたらやめられない、ついついのめり込んで、時の経つのも忘れてしまいそうな毎日だった。


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