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■山崎洋子&一之 さん 
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(14/16)

《恩を返していく人生》

「家族の猛反対」

 仕事をやりながら結婚するしか方法がないかしら・・・・。結婚も仕事も子育ても、みんなやりたいと思っていた。けれども、東京と福井では、通うのには遠すぎる。
 「どうしよう」
 彼に相談すると、彼は事もなげに言った。
 「仕事しながら結婚すればいいじゃないか。結婚しても、別に一緒に住む必要なんてないんだから、きみはきみでテレビの仕事をすればいい。俺は俺で、三国で百姓をやってるから」
 なるほど、彼の言うことはときどきめちゃくちゃだが、妙に納得させられるものがある。結婚するからといって、別に一緒に住む必要はないのかもしれない。会いたいときにお互いに連絡をとり合って、どこかで会いさえすれば、気持ちは通い合うだろう。
 『別居結婚』は、仕事を持つ女が、仕事と結婚生活を両立させる一つの方法のように思われた。
 ところが、いろいろ悩んでいる間に、彼は実家のほうへ結婚を申し込みに行ってしまった。家の中はてんやわんや。祖母は猛反対。妹が怒って電話をかけてきた。
 「姉ちゃん、いったいどうなってるの。姉ちゃんが、だれにも相談せんと勝手なことばかりするから、家の中はめちゃくちゃや。いったいどうするつもりなんや」
 次の日曜日、急いで小松へ帰った。
 今までのことや、これからのことを妹たちを交え、母とじっくり話し合った。妹たちや母は納得してくれたが、祖母は納得しなかった。親戚もみな反対だった。叔父さんたちが、わざわざ三国の山の中までどんなところかと見に行った。ところが、山の奥の林の中、電気も水道もきていない。隈でも出そうな山の中で牛を飼い、畑を耕しながら暮らしている。あんなところは、とても人間の住めるようなところではないといった。
 「そらみたことか。電気もないような未開の地へ、何でおまえをやったりなんかできるものか。そもそも、この醤油屋をどうするつもりや。私が生命を賭けて守ってきたこの醤油屋を、おまえはいったいどうするつもりなんや」
 祖母は、私を前にすると、白髪をなでながらきちんと座ぶとんに座りなおして言った。その目は激しく私をなじっていた。
 「この醤油屋は、おまえ一人のためにあるんやないんやぞ。家族やら親戚縁者一族のために、そして小松中の人々のためにあるがや。醤油屋をしとるおかげで、どんなときにも安心して食べるものを食べて暮らすことができたんや。おまえや妹たちを大学へやることができたのも醤油屋のおかげや。おまえがやらずにだれがやるというんや」
 祖母の言うことはもっともだった。
 「わざわざ山の中の百姓の嫁にやるなんて、何のために大学まで出したんやら。先生になるまでの勉強をさせたことやら。今までの親のせっかくの苦労が水の泡や。電気も水道もないような山の中で農業をやるなんて。みすみす孫娘が不幸になるようなことはさせれん。それに、おまえらのお父ちゃんが亡くなって四ヶ月余りしかたっとらんのに、そんなことを言い出してきて。私が反対せな、この家を守りきるもんはだれもえんがや。私は絶対に許さん」
 祖母はかんかんに怒っていた。何としても納得させれなかった。女が結婚するということは、今まで育ててもらった家族を捨て、ときには嫁ぐために自分が抜けることによって、仕事の仲間たちを裏切ることにもなっていた。
 親や兄弟、姉妹、祖父母に背を向けて、仲間を裏切ってまで、一緒に生きていく結婚とはいったい何なのだろうか。胸がはりさけそうだった。心臓がちくちく痛んで、毎日針のむしろに座っているようだった。祖母や親戚中を納得させ、母や妹たちを安心させるために醤油屋の跡を継いだらどんなに楽なことだろうか。すべては丸くおさまることだろう。だが、そんなことをしたら私自身どうなるだろう。一時、今はそれでいいかもしれない。だが、一生しれでがまんできるだろうか。私は何のために生まれ、何のために生きているのか。
 祖母を説得できなくて、大きな壁に突き当たったまま、毎日仕事をしながら悶々とした日々を過ごしていた。


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