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■山崎洋子&一之 さん 
■長澤源一 さん ■梶谷きよみ さん


(13/16)

「突然の出来事」

再び、音の仕事に戻ってからも、ときどき上京すると山崎君から連絡があった。互いの友人を紹介したり、されたり、友達の輪が次から次へと広がっていった。新聞記者、ルポライター、テレビのディレクター、オフィス・レディー、商社のサラリーマン、大学の講師、塾の経営者、ガラス屋、不動産屋、政治家のカバン持ち、教師、土建屋、公務員。それぞれの卵たちが、東京の片隅で生きていた。友達と語り、食べ、飲み、私、都会のおもしろさをふんだんに享受していた。
 そんなある日、久しぶりに上京した山崎君がやってきた。まだ何となく疲れやすい、青白い私の顔を見て言った。
 「こんな息苦しい都会で、いつまでこんな生活を続けるつもりなんや。音の仕事はじぶんの生をかけるほどのものなんか。いったい、何に執着しとるんや。
 いいかげんにして、山の中で一緒に暮らそう。空気はうまいし、食い物は新鮮やし、ええぞ」
 突然、何を言い出すのかと思ったら、山の中で一緒に暮らそうと言う。まるでそうするのかがあたりまえのようだった。私はびっくりした。
 「都会の生活も、仕事も、家も、友達も、今まで受けた教育もみんな捨てて、何もないところで何ができるか、一緒に何かを創ってみないか」
 その言葉が妙に心に響いた。
 何もかも捨てて、何もないところから何かを創る、そんな生活ができたらおもしろそうだった。
 彼と一緒に山の中で、農業しながら生活してみようかしら、そう思った。
 一緒に生きていく相棒として、こんなに気楽な相手はいない。お互いにやりたいことをやりながら、縛ることなく、縛られることなく、無理をせず、自然体でつき合っていける。彼となら、何でも話し合いながら、フィフティ・フィフティで気楽にやっていけそうだった。けれども、そんなに簡単に仕事をやめることはできなかった。
 「ちょっと、その返事待ってくれる。簡単に仕事をやめるわけにはいかないのよ。そんなに一方的に言われても、私のほうにも都合があるし、少し時間をくれない?」
 彼は、「そうか」と言って、突然、ジャガイモの相場の話を始めた。黙っていると一時間くらい平気でしゃべっている彼は全くもってわけのわからない人だった。


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