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梶谷きよみ さん
広島県久井町
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「やれることをやればいい」
あれほどに緊張しながら待った全国集会も、過去の出来事になってしまった。女性たちが堂々とものを言うのに驚き感動した、後日談によると壇上のひとりひとりがマイクに音が入りそうなほどにドキドキしていたとのことだった。
この会は、会場の皆の力で作り上げるもので、スムーズな流れというのは実際無理な話である。私たちが担当した龍年生まれチームのオークションも批判があった。しかし会も三回目となると度胸がつく。やることに意義があり、人と人とふれあい語り合えることが進歩なのである。精一杯考えて、精一杯やった自信が、人の批判にくじけない強さになったようである。
全国集会が終わって随分と月日が経ち、人前で話すことが上手くなったというとそうでもない。しかしあの時のことを思い出し、再び掘り起こして、意識して新聞を読む努力をしている。そして感じることは、思考回路のパワー不足と記憶力の低いこと。親に文句を言うには、長い年月が経ちすぎてしまった。
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私 「同じような頭がついて生まれてきたのにどうしてこんなに違うのかなあ」
夫 「きよみの読書が偏りすぎるんじゃないの。目指す人が読んでいる本のジャンルを聞いてみたら・・・・・」
最高のアドバイスにいつも感心する。さっそく遠慮がちに目指す人の電話してみた。
Y 「今ね、難しい原稿に向かっているところ、新農業基本法について、ああわかんないよう、どうでしょうか?」
私 「それで目の前にある本は何」
Y 「小六法だけど」
この電話で、すっぽり諦めがついた。自分の人生は自分らしく生きよう。きっと今頃は仲間たちが各地で自分流のオーラをまき散らして暮らしていることだろう。あの日のパワーを反芻しながら・・・・・。自分なりでいい。自分なりに無理せずに、自分を愛して、自分以外の人に触れたくて、世の動きを知りたくて集会があった。嬉しいことだった。ほんとに良い集会だった。農を志して三十年になる。高校時代、農を憧れて農大へ進んだ。がむしゃらだったけど、良い日々が今に続いている。目の前に何度も大きな扉があったけど、力一杯恐れずに開けてきた。そして今目の前で、次の扉が開きつつある。次男が学校を卒業して、ガールフレンドを連れて就農した。嫁であった私が、突然姑になったのである。
「この扉は少々面倒だぞ!」
と思うのは私だけらしい。夫はすこぶる楽しそうで、早々研修旅行と称して、夫と息子カップルと連れ立ってしまった。息子は親をしっかり見習っている様子である。息子のガールフレンドは私と同じで、静岡出身の東京農大の同級生なのである。時代は繰り返す、ほんとうにそうだと思うとこれからの態度を慎まねばならない。
「お母さん、耕ちゃん(息子)は、お母さんのこと好きで、とっても誇りに思っているよ」
嫁がそう言った。この娘さんに幸せになってほしいと祈った。それで私が考え出した対策は、息子たちに農園を任せて時々留守をすることである。息子に任せて倒れるくらいの農園なら早く倒して、また一から始めようと、心裏腹な一文を腹の底へ押し込んだ。
まずは隣りの国へ、去年頃から作りだした焼肉レタスという代名詞のついたサンチュが、本場でどんな風に使われているのかを見てみた。東京へ行くのと同じくらいの距離でソウルへ着いた。近くにいる隣国の人々とゆっくり触れ合える旅だった。サンチュはかぎチシャに似ているが、少しサラダ菜風であり、葉や肉やごはんを包んで食べる、この食べ方がなかなか美味しく私もサンチュを出荷するに至っている。気づかぬうちに食文化はどんどん交流している。農を通じて食文化は交流できる。私は外国へ行くたびに、新しい食生活への刺激を受ける。今訪れているカナダでは、ミックスベビーリーフサラダが出回っている。何とびっくりしたのは、オーガニックと銘打っていた。ハコベまでがミックスサラダに入っていた。食器の中にあるハコベに、草が混じって入り込んだのかなと思い、残したのに、市場で再び草に会いびっくり。そもそもハコベは春の七草の一種で食べられることは知っていても、サラダの一品とは思いも寄らなかった。そしてハコベの下に、プロテイン・鉄分など含まれているものの説明までが書かれてあった。一見は百聞にしかずの旅である。
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私のできる、農を通じての文化交流は、とても楽しいものである。農園でできることから実践に移すのである。息子たちもしっかりと私のすることを見ている。今もってこの職業を選んだことを誇らしく思う。
私が農業を選んで三十年、その間に随分と農村が変わった。息子が言うには、昔はここでシジミを採った。昔はここに沢ガニがいた。魚が多かった。昆虫も多かった。23歳の息子の言葉である。私は精一杯暮らしているうちに随分と自然を壊して来てしまった。それに気づいて少しずつでも昔を取り戻したい。私の農業の中でもである。
息子よ、きっと私たちがしてきたことの尻拭いをしなければならない時代が来るだろう。決してひるむな、やれることをやればいい。若者たちよ知恵とパワーを出さざるを得ないときはもうすぐである。
ところで、ここカナダで耳にした話だが、何万年も前の氷河の水を今飲料水に使っているが、産業革命以後のほこりが氷河に堆積さて、とっても汚れているという。行く末は水問題で戦争が起こるだろう、と。
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