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■山崎洋子&一之 さん 
■長澤源一 さん ■梶谷きよみ さん


「ホレンソウがきっかけ」

 ホレンソウが夕日に映え、だんだんセピア色に変わってくる。その美しさに、「私、ホウレンソウ大好き」と叫ぶと、「ようし、きよみのために一生ホウレンソウを作るぞ!」夫がほえるように言った。
 約束どおり作り続け、夏場にはできないとされていたホウレンソウまで作っていたら、夏場の高値で人束三百円という相場が出た。
 マスコミで騒がれ、あっという間に視察で仕事をする時間がないほどになってしまった。

 そんな野菜づくりの数年後、本棚に恩師・栗太教授訳の『共栄植物とその利用』という小冊子を見つけた。
 野菜といっしょにハーブを植えることにより、病害虫対策になり、その野菜もよくできるよいうもの。本を参考に、野菜の虫除けにハーブを植えてみた。ハーブが野菜といっしょにとてもよくできた。
 そんな話をラジオ番組でしたら、隣りの岡山県から、イギリス帰りの食品業者がとんできた。
 「フレッシュバジルを探してたんです。イタリアからシェフが来るのにどこもなくて、困ってたんです」と言う。
 その人はわが家に、重たいハーブ辞典を残していった。

 そんなに貴重なら作ってみようと始めたものの、出荷の形態もわからない。
 手探りでどうにか出してみたが、市場の反応は、「これどうするの?」。考えたあげく、ひと箱に詰め合わせにして、量販店の棚に並べてもらうことからスタートした。
 15年前には、売り方や使い方を学ぶために、外国へ勉強にも行った。
 海外で見たハーブやサラダ用野菜をヒントに、自分流に作り、売る。買われた先で、皿の上でさまざまに演出されるようすを想像するとワクワクしてくる。

 30年間の「挑戦」という農の道はおもしろかった。
 今も、そしてこれからも、皿の上の美学がふくらむ。そして今また、新しい商品が生まれようとムズムズしている。
 きっとヒットすると確信しているが、まだ公表できないのが残念である。

 

「障害を持つ夫 また学生に」

 朝起きて、ベッドから立とうとすると転ぶ。トイレにいくことも洗面もできず、つねに転ぶ。私は、同じ夢を何度もみる。9年前、夫が市場の帰りに事故で足を切断してから、健常者の私が夢の中で片足を克服できずにいる。

 こんな私とは裏腹に、半身マヒのうえに義足の夫は、カナダのナイアガラボタニカルガーデンに、園芸の勉強出かけて行った。半身マヒの義足は、人に押されればすぐに転ぶし、動く手は杖(つえ)を持っているので、顔から転んでしまう。夫の危機管理のアイデアで、機会の棒の足をむき出しで歩いている。人目を引くが、人が注意を払ってくれる。

 私たちには三人の男の子がいる。三男の譲は、現在カナダの大学四年生である。譲が中学一年生の3月から留学して今に至っているのだが、息子を留学に送り出したその年の暮れに、夫は交通事故にあったのだ。
 二年間の病院生活の後、夫は自分なりの農業のかかわり方を生み出してきた。
 市場やレストランのシェフに農園の状況を伝えたり、アブラ虫が発生すれば、天敵のアブラ蜂がさりげなくサラダ用野菜のアイデアを提供する。暇さえあれば農業書に埋もれている。障害者になったことで、今まで以上に農業の新しい扉を開くチャンスを得ているようである。

 去年息子を訪ねた時、カナダでも有数のナイアガラの園芸学校を尋ね、その後学校の教師とたびたび連絡をとり、とうとう入学許可をもらった。この5月に晴れて学生生活を始めた。今頃は顔を輝かせて、園芸セラピーを学んでいるだろう。
 「ハーブの情報を仕入れて送るから、しっかりもうけろよ!」という言葉を残して旅立った夫。そろそろ私の夢も、片足で走ったり、飛び跳ねる日が近いだろう。


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